『もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ』 高橋由太

もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)


オサキモチの周吉と、周吉に憑くオサキのコンビが活躍する妖怪時代劇。江戸時代、舞台は江戸の本所深川です。


……で、オサキモチって?オサキって??

わたしは知らなかったのですが、“オサキ”というのは日本古来の妖怪で、妖狐の一種のようなものだとか。漢字では“御先狐”または“尾裂狐”と書き、外見については諸説あるそう。そして狐に憑かれた家系を狐持ちと呼び……


なんて知識はさておいて、この作品におけるオサキは白狐の姿をした魔物。周吉のふところの中で、ちょっと天然ボケの主をからかってばかりいます。
オサキに憑かれたオサキモチの周吉は、美形だけどどこかとぼけた20歳の青年。オサキモチといえど人間、しかし人間といえどオサキモチ、彼は不思議な力を……例えば闇に身を隠す力などを、持っています。


生まれた村を追われ、今は献残屋の手代として過ごす周吉。しかし、その周囲で不可解な殺人や鬼隠し(=神隠し)が起こり始め……というストーリーです。


オサキモチとオサキという設定や、周吉とオサキはもちろん、その他の登場キャラクター達も魅力的なのですが、ちょっと入り込みにくい話ではありました。


前半部分は設定の紹介が続き、話がとぎれとぎれになってしまっている印象。後半部分も回想が多かったり場面展開が早かったり、せっかく盛り上がるはずのシーンでも、物語に夢中になりきれなかったのが残念でした。改行が多く、すぐにシーンが移っていってしまうので、上手く世界に入り込めなかったのかな。


そんなふうに説明っぽい文章が続くわりにと言うべきかせいでと言うべきか、せっかくの魅力的なキャラ達の繋がりも見えにくかったのがいちばん惜しいところ。
特に、周吉とお琴、周吉と冬庵の関係は、もうすこし丁寧に見たかったな〜と思います。
まず、周吉とお琴。二人の恋模様を、もっとじっくり味わいたかった!お互いのどこに惹かれているのかとか、もうすこし丁寧に描かれていてもいいんじゃないかと。2人のシーンもたくさんあるのに、どうしてか突拍子のなさを感じてしまいます。
周吉と冬庵についても、冬庵の説明がなされた直後にあっさり死んでしまったので、周吉のショックを感じ取り辛かったです。オサキモチの理解者である冬庵が、周吉にとってどれだけ大切な存在だったのか、もっと自然に伝わってきてくれたらよかったな。


あと、これは個人的な好みの話なのだけど、

和尚(=新市)の描写など、けっこうグロテスクでびっくりしてしまいました!
ホラー系は得意じゃないのでちょっと怖かったな(笑)


それから、わたしの読解力不足のせいなのか、最初のシーンで佐助と一緒に和尚を埋めた人物が誰なのかわかりません……!


そして、“鬼”がキーワードになっていましたが、周吉の周囲で起きた事件の犯人は人間。
もちろん、読みながら、鬼が犯人だ!などとは予想しませんでしたが。
結局“鬼”という存在の印象は薄く、そのキーワードを使いこなしていたとは思えませんでした。


と、ちょっぴりけなしてしまっていますが、


シリーズ2作目も発売しているとのことで、そちらへの期待を充分に抱くことができる作品です。
『オサキ江戸へ』で舞台設定はすべてととのった、という感じ。
2作目以降は、個性的なキャラクター達を上手く掘り下げて、もっと読み応えのある作品になっているんじゃないかな、と期待できるところまでは、1作目も面白かったということです。


周吉とオサキの可愛らしい掛け合いを、さらに楽しみたい。
周吉とお琴の恋は、結婚は、いったいどうなるのか、気になる。
蜘蛛ノ介や佐平次やしげ女といったキャラ達を、もっと知りたい。


そして、周吉がオサキモチであることを、誰かが知る日はくるのかどうか。そのとき、周吉は、オサキは、どうするのか。


周吉の祖父とクロのオサキはどこかにいるのか。


続きを読んでみたいと思わせる要素は、あちこちにちりばめられているのです。


近い内に、2作目も買ってこようと思います!


ところで、周吉とオサキを想像したときに、『夏目友人帳』の夏目とニャンコ先生を連想していたので、大森望さんの解説に『夏目友人帳』の紹介があったのが、すごく嬉しかったです(笑)


読んだ日:2011/01/12


_