『若様組まいる』 畠中恵

若様組まいる (100周年書き下ろし)

若様組まいる (100周年書き下ろし)


表紙がすてき!園山がかっこよすぎる!(笑)


アイスクリン強し』の続編……といっていいのかな?

時系列でいうと、前作よりも少し昔のことを描いた作品。主人公もミナから長瀬に交替しているので、“スピンオフ”と呼んでもいいかもしれません。


時代は明治二十年。

前作に登場した、旧幕臣の子息達“若様組”の面々が、巡査になることを決意してから、巡査教習所を卒業するまでのおはなしです。

前作の主人公・ミナこと皆川真次郎の、幼馴染み兼親友の長瀬が、このたびの主役。“若様組”の中ではリーダー格の人物です。

長瀬の発案で巡査になることを決めた若様組のメンバーは、長瀬を含めて8人。温厚な性格の福田や、美男子だけどキレると暴れる園山など、個性的な人々が揃っています。

巡査教習所には、若様組のほかにも、平民組、薩摩組、静岡組……と境遇の異なる者達が集います。彼らと上手くいかなかったり、嫌味な幹事に睨まれたり、若様組の雲行きは怪しくなるばかり。その上、噂の絶えぬピストル強盗の事件が、教習所内にも舞い込んで来て……というストーリーです。


前作を読んだのは二年近く前なので、正直、いろんなことを忘れています……。

特に警察関係の人物のことをあまり覚えていなかったので、今回の続編を読んでも大丈夫か不安だったのですが、それに関しては心配無用でした。おそらく前作を読んでいない人も充分に楽しめる作品になっています。

(もちろん前作を読んでいればニヤニヤできるポイントも満載です!)


畠中さんの文章は読み始めてすぐに入り込めない印象があったので、ちょっと構えてページを開きましたが、思ったよりもすらすらスタートできました。

作品の世界に入り込めたら、今度は説明がすぎるほどわかりやすい文章に思えてきます。不思議!


わたしはとにかくミナが好きなので、若様組が主役の話にそこまで期待を抱いていなかったのですが、読んでみると想像以上に面白かったです。


ピストル事件を巡りながら、教習所で起こる人間関係の発展。

長瀬の心境も、若様組の関係も、他の立場の人物達との掛け合いも、ひとつの青春ドラマとして楽しい。特に、次第に築かれていく“同期”という友情を見ていると、温かい気持ちにになります。

そして、以前と比べてキャラクター達の個性がより強く描かれている印象。長瀬に対して友情と憧れと嫉妬のような感情を抱く福田、ストレートでどこか野性的(荒々しいという意味ではなく……確かに暴力的ではありますが)なところがある意味誰よりも純粋に見える園山、そしてリーダーにふさわしい器量に迷いも弱さも持ち合わせた長瀬、など。一人一人に深みが増して魅力的であり、さらに彼らが共に過ごすことでその魅力が倍増するのです。たびたび暴走しかける園山を制止する面々とか、いいですよね。


しかし、単に爽快な青春ドラマかといえばそうでもなく、ちょっぴり苦味が含まれているのは、前作同様。

前作も、明治維新の時代を生きる若者達の爽やかな姿だけではなく、移り変わる世の中の不安定さを暗示し、世知辛さをちょっと切なく盛り込んでいた印象がありました。そして、そこが作品の面白さになっていた。

なので、今回の苦さ・切なさも、作品を面白くしてくれた良きスパイス。明治になっても埋まらない身分差や、明治になったからこそ生まれる暗い駆け引き、維新前後に生まれた若者達の必死に生きる背景。それらは登場人物たちの姿に、すこし暗い色を添えてくれる。若者達の真っ直ぐさや爽やかさが彼らを明るく彩るならば、思い通りにならない時代の中でもがかねばならないその暗い色があってこそ、たくさんの色に染められた物語が充実するのだと思います。


若者の話が中心になってしまいましたが、今回鍵となる人物の有馬幹事もなかなか印象的なキャラでしたね。嫌な人であることは間違いないですが、彼も怒濤の時代を生きる人。彼の信念は真っ直ぐだけれど、その信念を守って生きるためには、いろんな手段が必要なんでしょう。もちろん、それをこなす性格であることは確かですが。

でも、所長を投げ飛ばしたところは素直に笑えてしまった!そんなばかな!(笑)


前作は連作短編集でしたが、今回はひとつの長編なので、一気に読める勢いもありました。人間関係のことばかり言ったけど、ピストル事件に関するちょっとした謎解きも面白い。これは長編ならでは、かな。


そして、登場回数は少なめでも、やっぱりミナは最高!

特に幹事とのやり取りが好きだなあ。

“にこりと笑う、半眼になる、しれっとする”……ざっくりした書き方にしてしまいましたが、この“表面上ニコニコ”な雰囲気がすごく好き!

とはいえミナは腹黒い人物ではないですけどね。なんてったって、『寂しがり屋でお人好し』な真さんですから。
真さん、といえば沙羅さん。前作では二人の恋路にかなりときめいた覚えがありますが、若様組が主役の今回、二人のシーンは少ないですね。けれど、牛鍋屋のシーンで、相変わらずミナのことを“寂しがりや、お人好し”とからかう沙羅は、そんな真さんがほんとは好きですって言ってるみたいで、可愛らしい(笑)

そういえば、長瀬の沙羅に対する気持ちがはっきり描かれていますが、これにはすこし驚きました。「え、そんなはっきり自覚するほどだったの?」と思ったのですが、なんせ前作の記憶が曖昧なので、単にわたしが忘れているだけで、前作でも長瀬の気持ちは描かれていたのでしょうか。思い出せません……!


さて、このシリーズはこれからも続くのか……今回は前作の“その前夜”だったので、また続編が出たらどういう物語になるのかわかりませんが、ぜひ続いてほしいですね。ミナ、長瀬、沙羅の3人の行く末はもちろん、若様組の面々や、今回登場した同期の巡査達など、今後が気になるキャラクターはたくさん。誰に視点を当てるかで、いくらでも話は続きそうな気がします。楽しみだなあ!


また、映像化しても面白そうだなと思います。個性的で愛すべきキャラ達を俳優さんが演じるのは難しいというか、読者ひとりひとりにイメージがあるので実写というのは時にもどかしいものではあるけれど、文章では想像しきれないものを映像で見てみたい気持ちも沸いてくるんです。今回でいえば、梯子のシーンとか、ぜひ映像で!って感じ。絶対に面白くなると思うんだけど……。

あとは、ミナの作る西洋菓子を見てみたい!(ついでに食べてみたい!)


いろいろ言ってきましたが……

文章に癖があるけれど、読みやすいとは思うので、それに馴染めれば話は面白い。

何より、個性的なキャラ達のそれぞれの生き方を見るのが時に切なく時に楽しく、その中のささいなやり取りが可愛らしく面白く……そんな登場人物が織り成す物語だから夢中になれる。

『若様組まいる』楽しんで読めました!


読んだ日:2011/01/08


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